【新外国人】スペンサー・パットン投手の分析と起用法を考える。
あと数時間で2017年の春季キャンプが幕を開ける。沖縄で選手と共にキャンプインを迎える人、ニコニコ動画にかじりついて選手の動向を見守る人、夜のスポーツニュースを楽しみにしながら仕事や勉強する人。楽しみ方は人それぞれだが、去年までベイスターズの選手ではなかった選手が、初めてベイスターズの選手としてピンストライプのユニフォーム姿を見せるこの時期が私は一番好きだ。彼らの加入で今年のチームはどう変わるのか。選手分析を深めていくと自然とキャンプの見どころは増えていく。今年のキャンプはじっくり見ると面白い点がいっぱい見つかるかもしれないと期待している。
新外国人助っ人特集も今回で最後である。クローザー候補として山崎康晃とポジションを争うことになるであろうスペンサー・パットン投手を分析した。
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スペンサー・パットン 1988年2月20日(28歳)
人口約4万人の街、アーバナはあまり聞き慣れない地名だが、アメリカ中西部を代表する大学の1つであるイリノイ大学の本部キャンパスが立地しているため、理系のエリート学生が集まる街として知られている。ちなみに、厚切りジェイソンもイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校卒業生である。イリノイ大学がアーバナの文化の中心であり、美術館、博物館、図書館、多目的ホールに病院、さらには空港までもが大学の所有施設であり、街全体がキャンパスの一部といっても過言ではない。余談だが、クラインの出身地であるコロンバスは人口約78万人であり、相模原市の人口とだいたい同じ規模である。ウィーランドの出身地であるリノ、シリアコやエリアンの出身地であるサンペドロ・デ・マコリスは人口約20万人なので、神奈川県でいえば厚木市や茅ヶ崎市ぐらいだろうか。パットンの出身地アーバナが人口約4万人だとすると、三浦市や南足柄市、寒川町ぐらいの規模と考えたほうがイメージしやすいかもしれない。
2011年のMLBドラフト24巡目(全体726位)でカンザスシティ・ロイヤルズから指名され、6月12日に契約。一年目のルーキーリーグでは冴えない成績に終わったが、二年目にリリーフ投手として開花し、三年目となる2014年に3Aオマハ・ストームチェイサーズに昇格する。オマハではアウディ・シリアコの兄であるペドロ・シリアコ、楽天・ペゲーロらと一緒にプレーしていた。パットンもオマハの主力クローザーとしてチーム2位の登板数を記録していたが、7月になるとジェイソン・フレイザーとのトレードでレンジャースに移籍する。
移籍後は傘下の3Aラウンドロック・エクスプレスに活躍の舞台を移すのだが、ここで前回触れたようにフィル・クラインと出会いを果たす。パットン、クライン、それに元巨人・ポレダはリリーフ投手として活躍していたが、他にも日本球界に縁のある選手が在籍していた。巨人のマイコラスと今年から阪神に加入するメンデスである。マイコラスはこの年メジャーと3Aをいったりきたりしていたが、ラウンドロックでは先発機会6試合で5勝1敗と結果を残していた。パットン、クラインとも成績を見るにセットアッパーとして起用されていたので、アメリカではマイコラスの後を受けて登板していた時もあったかもしれない。シーズン終盤ではレンジャースの選手として初のメジャー昇格を果たし、初勝利含む9試合登板と飛躍の一年になった。
翌年2015年もレンジャースのブルペンを任されることになるが、結果を残すことは出来ず、3Aラウンドロックに降格。この年はクラインだけでなく、阪神・藤川球児、今年からヤクルトに加入するオーレンドルフ、元日ハム・バースも一緒にプレーしている。3Aではセットアッパーの地位を固めつつあったが、メジャーでは結果を残すことなく11月にカブスへ移籍する。
カブス移籍後もメジャーでは結果を残せず3Aでは活躍する状態が続いていた。とはいえ、3Aアイオワ・カブスでは自己最多登板となる35試合に登板し、防御率0.75、11セーブとキャリアハイの結果を残していた。チームメイトになった川崎宗則とは仲良くしていたようだが、アイオワ・カブスには元阪神・マートンも在籍していたので、日本球界挑戦にあたって色々アドバイスはもらっているかもしれない。パットンが吉野家にハマっていたり、妙な関西弁を披露するようになったらきっと彼の影響だろう。
【特 徴】
3Aにおける3年間の平均奪三振率は12.9%、与四死球率は3.5%である。比較的この数字に近い選手でいえば、広島・ジャクソン(奪三振率11.7%、与四死球率3.0%)、ソフトバンク・バリオス(奪三振率11.4%、与四死球率3.6%)といったあたりか。
昨年のパットンのLOB%(ランナーを背負った場面でどれだけ帰塁を防いだか測る指標)までは調べきれなかったが、防御率1.71、LOB率81.8%と結果を残したジャクソンと散々な結果に終わったバリオスでは成績に大きな違いが出ている。両者で一番差が開いたのは被打率だろう。特にストレートの被打率はジャクソンが.242、バリオスが.438と大きく明暗を分けた。パットンのストレートは.265(メジャーでの成績含む)となっており、ストレートに関してはジャクソン並の威力があるようだ。
一方で、与四死球率は3%台、特に2016年は3Aでも3.8%と制球面に課題を残している。例えば、先頭打者を簡単に歩かせてしまうと球威もやや落ちるだろうから、狭いハマスタを本拠地にするクローザーとしては少し怖いデータである。フォームはシンプルな印象で、クイックモーションにも大きな問題は無さそうだ。
この動画ではほぼフォーシームを投げ込んでいる。ピッチングスタイルは平均球速150キロのフォーシームを中心に配球を組み立て、スライダー、チェンジアップを決め球として空振りを奪う感じだろうか。フォーシームはウィーランドのような綺麗な軌道ではなくやや沈む動きをする。チェンジアップ、スライダーともに被打率はメジャーでも2割台前半であり、日本でも決め球として通用する見込みがありそうだ。メジャークラスになるとフォーシームの平均球速150キロ程では打ち込まれる傾向があり、また、シンカー等の球種でゴロアウトを狙えなかったことがメジャーで通用しなかった要因と考えられる。来日後は平均球速が2~3キロ落ちるとしても、十分ストレートで押せる力はあると思われ、成績的にも広島・ジャクソン並の成績を残す事は予想可能ではないだろうか。
以上から、パットンの特徴としては
①平均奪三振率が高く、与四死球率はやや不安定なため、クローザーよりもセットアッパー向きか。
②やや変化のあるフォーシームを軸に、スライダー、チェンジアップをウィニングショットとして使う。
③GO/AO%を見る限り、フライアウトが多い傾向がある。シンカー系の球種習得が可能であれば、投球の幅は広がりそう。
【今後の課題と起用法】
2017年のベイスターズのクローザーはどうするか。2015年の状態が戻れば間違いなく山崎康晃で問題無いだろう。与四死球率が大きく悪化し(2015年1.8%→2016年3.6%)、ストレート被打率も悪化している現状だけに、山崎康晃がクローザーで収まるのかどうかはキャンプ、オープン戦の結果が全てになりそうだ。また、パットンがクローザーを務める場合は、いかにストライク先行で勝負できるかが鍵になる。ストレート、変化球ともに威力はあるだけに、ストライクゾーンで勝負していけば自ずと結果は残しそうな気はする。
昨年は不在だった「ストレートで押すタイプ」のセットアッパーが、パットンの加入で実現した。山崎、三上、パットンそれぞれタイプが違うため、この3人で7,8、9回を任せるのが一番理想の形である。田中健二朗、須田幸太、藤岡好明といった選手も絡めていけば、リーグ屈指のブルペン陣になるだろう。あとは監督の期待も大きい進藤拓也や、ベテラン大原慎司、林昌範、加賀繁らの復活にも期待したい。