時計仕掛けのロマック

横浜DeNAベイスターズ応援ブログ。外野席ではなく内野席から見るようなブログ。

倉本寿彦は何故、レギュラーの座を掴む事が出来たのか。

「プロフェッショナル-仕事の流儀-」を何気なく観ていた人は結構いるのではないだろうか。日本を代表する脚本家であり、「北の国から」の生みの親、倉本聰氏が出演していた。82歳を迎えた現在でもドラマ制作に対する情熱は衰えておらず、脚本と真剣勝負に向き合う様は鬼気迫るものがあった。1000ページに渡る新たな脚本を創り上げるために膨大な時間を思考に費やす。常に脚本を書いていないとあっという間に感覚が衰えていく、という言葉の重みを感じながらこの番組を観ていた。

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82歳の老脚本家が毎日机に向かい、脚本と真剣に向き合っている。その一方で私のような末端ブロガーは、ネタが思い浮かべばブログを書き、ネタが無ければ猫と遊んで寝床に着く。そんな生活を送っている(一応仕事はしているが)。だからというわけではないが、今回取り上げるのはベイスターズ不動のショートストップであり、セイバーメトリクスに嫌われる男倉本寿彦である。

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倉本寿彦 1991年1月7日(26歳)

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【分 析】

ⅰ)守備面に関する考察

2008年に石井琢朗が退団してから、ベイスターズはポスト石井琢朗を見つけることが一番の課題とされていた。球界を代表する名ショートストップの後継者はそう簡単に見つかるはずもなく、2009年、2010年と石川雄洋規定打席に到達した以外では誰一人ショートのレギュラーの座を掴むものはいなかった。そういった背景を考えると、昨年、レギュラーとして141試合出場した倉本の台頭はベイスターズにとって非常に大きなポイントになったと言っても良かった。ショートが固定されたことで、安定した試合運びが可能になった結果が11年ぶりのセ・リーグBクラス脱出であり、球団史上初のクライマックスシリーズ出場であった。そう考えると、倉本の評価はもっと高まっても良いはずなのだが、「守備範囲が狭い」「長打に期待出来ない」など、どうもファンの声は少し厳しいように感じる。もちろん期待の裏返しであり、いずれは倉本自身も尊敬する石井琢朗のようになってほしいという願いも込めてのことだと思うが、個人的にはセ・リーグを代表するショートストップだと思っているので、まずは守備から倉本の特徴を分析する。

野球選手の守備力を測る物差しとして、アルティメット・ゾーン・レーティング(UZR: Ultimate Zone Rating)(以下UZR)というセイバーメトリクスの指標がある。この指標では、グラウンドを細かな「ゾーン」に区分し、対象の「ゾーン」内に飛んできた打球に対して適切に打球処理が行われたかどうかを判定する。例えば、同じ「ゾーン」に飛んできた打球に対して、Aという選手は難なくアウトにしたが、Bという選手は打球に追いつくことが出来なかった。この場合、UZRにおける「守備範囲」の評価はA>Bになる。しかし、守備力というものは「ゾーンにおける守備範囲」だけでは評価の物差しとしては不十分である。そのため、総合的な守備力を測る要素としては、「守備範囲」以外にも「守備の堅実性」「内野手同士の連携性」といった項目も考慮する必要があり、それぞれの項目の数値から、総合的な守備力の指数を出した指標がUZRとなる。総合的な視点から守備力を数値化するため、UZRが高い選手ほど守備の上手い選手であり、UZRが低い選手は守備に不安がある、というように判断できるようになった。

上の文章を簡単にまとめると

内野手の守備力を評価する指標としてUZRという指標がある。

・UZRは「守備範囲」「守備の堅実性」「内野守備の連携性」といった要素を掛け合わせて選手の守備力を評価する。

・UZRの数値が高いほど「守備力の高い選手」となる。

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参考データ:1.02 - Essence of Baseball | DELTA Inc.

上の図は昨年におけるUZRの各指標の数値である。中日・堂上直倫だけは2015年のデータを探し出すことが出来なかったが、カッコ内の数字は2015年の各選手のUZRの数値である。こうして見ると、UZRに関しては巨人・坂本勇人セ・リーグトップの13.1とダントツの評価を得ている一方で、倉本に関しては-10.5と守備面で大きなハンディキャップを抱えていることがわかる。守備範囲(Range Runs)の指標の差がそのままUZRに反映された形だが、守備の堅実性(Error Runs)という項目では巨人・坂本が1.1と平均的な数値なのに対し、倉本は5.9であり、堅実性という視点ではセ・リーグトップの評価を得ている。これらの数値を見ると、坂本が処理できた打球を倉本は追いつくことが出来なかったが、坂本が無理な体勢から送球し、結果悪送球になってしまった打球も、倉本なら難なくアウトにしていた、ということになる。

先程、UZRの高い選手=守備が上手な選手と表現したが、個人的にはUZRは選手の守備の特徴をより具体的に表す指標だと思っている。各項目の数値を元に選手の守備に対する特徴を書いてみたが、おおよそ皆さんのイメージもこの特徴に近いのではないだろうか。倉本は確かに守備範囲が狭い事は課題と言えるが、内野守備における堅実性は「守備職人」といった言葉が似合う安心感がある。石井琢朗は強肩を活かした華麗な守備が魅力の選手だったが、倉本は元日ハム・奈良原浩阪神久慈照嘉のような「いぶし銀」と呼ばれるようなタイプだろう。おそらく彼らもUZRという総合的な守備評価から見ると決して数値は高くない気がするが、グラブ捌きやスローイングの正確さは素人目に見ても上手だった選手である。

一口に「守備の上手い遊撃手」といっても、UZRの指標を見ると色んなタイプがあることがわかる。倉本は基礎を忠実に守っている「堅実型」であり、坂本や田中は身体能力の高さを活かした「冒険型」だろう。子どもたちは坂本勇人田中広輔のような華麗な守備に憧れるだろうが、指導者の立場からすると倉本寿彦大引啓次のような正確なスローイングや状況判断力を身に着けてほしい、そんなイメージだろうか。

以上をまとめると

①倉本の守備範囲に関しては、セ・リーグの他の遊撃手と比較して課題がある。

②一方で、守備の堅実性はセ・リーグトップクラスの水準を持っている。

石井琢朗タイプというよりは、将来的に「いぶし銀」と呼ばれるタイプの選手になっていく可能性がある。

www.plus-blog.sportsnavi.com

セイバーメトリクスにおける守備指標は奥が深く、今後も様々な指標が登場すると思う。UZRの指標を使った選手分析をされている方も多く見られるが、特にこのブログでは倉本の指標が悪化した要因を考察しているため、色々参考になる事が多かった。倉本のUZR指標が大幅に改善される可能性も充分ありそうである。

ⅱ)打撃面に関する考察

社会人・日本新薬時代は足を大きく上げる一本足打法で、右中間を破る長打も打てる選手だった。しかし、一軍クラスの投手の球を相手にすると、全く成績を残すことは出来ず、ルーキイヤーの2015年はプロの壁にぶつかった。迎えたプロ二年目。倉本がプロで生き残るために磨いたのがヤクルト・川端慎吾のようなバットコントロール技術だった。大胆な打撃スタイルの変化だったがこれが功を奏した。倉本は開幕戦からヒットを重ね続け、序盤のチームに漂っていた負の流れを何度もバットで振り払っていた。時に打線の中軸を任される機会もあるほど打ちまくり、昨年はキャリアハイの141試合出場で打率.294と結果を残した。昨年のように倉本が下位打線の起点になれば、ベイスターズの打線はさらに攻撃力が増すだろう。今年も打撃面で期待ができるのか分析した。

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倉本は基本的に早いカウントから積極的に振っていく打撃スタイルを取っている打者である。初球打ちに関しても、2015年は.205と結果を残せていなかったが、2016年は.408と非常に得意としている。IsoD四死球によってどの程度出塁したかを示す指標)は0.03~0.04となっており、平均的な打者と比べて四死球を選ぶことが少ない打者と言える。また、BB/K(四球と三振の比率で、四球数が多く三振数が少ない打者ほどこの数値が高くなる。)が2015年と比べて数値が上がっていることから、ルーキーイヤーと比べて三振の割合が減り、四球の割合は増えたことがわかる。とはいえ、セイバーメトリクスの観点からすると四死球率が低い傾向に変わりないため、打率の割に出塁率が伸びていないことが評価に繋がっていない要因となっている。

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打席では三振が減り、安打も大幅に増えたことがわかる。打球方向別の打率から見ても、ヤクルト・川端のようなバットコントロールを身に着けたことで、どの方向にも万遍なくヒットゾーンに打てるようになった。相手チームの外野手も倉本の打席では右寄りに守っていたが、相手の守備位置に合わせてヒットを重ねる場面が昨年は多かった印象である。

【2015年】

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【2016年】

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©データで楽しむプロ野球http://baseballdata.jp/

最後に球種別の安打割合で2015年と2016年を比較した。一番大きく変わったのはストレートに対する打率である。2015年は.216と苦戦していたストレートだったが、2016年は.311と大幅に改善されている。巧みなバットコントロールを身に着けたことでヒットゾーンに狙い撃てるようになったことが3割近い打率を維持できた理由だと思うが、ストレートに対する苦手意識を克服したことも大きかったのだろう。また、対左投手に対しては2015年は.135と全く打てていなかったが、昨年は.317と全く苦にしていなかった。左投手のチェンジアップなどにはまだ対応に課題がありそうだが、左右関係なく打てていた事は自信になるだろう。

以上の打撃データから、倉本が打撃面で進化した要因として、

①バットコントロールに磨きがかかったことで、どの方向にもヒットが打てるようになった。

②ストレートに対する打率が.311と苦手意識を克服した。

③対左投手相手にも.317と左右関係なく結果を残した。

【今後の課題】

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実は、昨年のキャンプ、オープン戦の打席を見て、「おそらく今年も打撃で期待は出来ない」と思ったのが倉本だった。ミスショットが多く、外角に外れたボールにも手を出す姿を見続けるとさすがに不安になっていた。今年のキャンプでもフリー打撃で少し強い打球を飛ばそうとしているのかフォームを色々試している様子である。2015年のようにライト方向に打球が集中している姿が印象的なのだが、キャンプが終わった時、果たしてどうなっているのか非常に注目している。

ただ、倉本に関してはいかに夏場を乗り切れるかが一番の問題だろう。

オールスター戦までは打率.316と好調を維持できていたが、8月の打率は.218。9月に入っても打撃不振は変わらず.213と低迷し、最終的に打率3割を逃すシーズンになってしまった。山崎憲晴も数年前、夏を迎えた瞬間に打撃面も守備面も一気に悪化したことがあったが、想像以上にショートを一年間守り通すというのは過酷なことなのだろう。阪神鳥谷敬広島・田中広輔巨人・坂本勇人らを見ているため、「ショートは一年間固定されるべき」という考えが一般的だが、倉本のコンディションが良くない時は怪我から復帰した山崎や、柴田竜拓狩野行寿ら若手をバックアップメンバーとして起用するのも有りだと個人的には思う。

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